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2022.01.07

【Unity道場“建築編”レポート】
建築現場と開発者をつなぐテクノロジーの活用法

Unityのエキスパートたちが、開発者向けに、様々なトピックをセミナー形式でお届けする「Unity道場」。2021年11月10日(水)には建築編として、常に新たなテクノロジーを導入する、建築業界の“革新者”たちによるセッションが開かれました。

配信された3つのセッションの冒頭を飾ったのが、建築現場で実際にUnityを活用している方々が、注目を集める「デジタルツイン」の広め方に至るまで、その活用法から未来までを語ったパネルディスカッション。この記事では「Unity×建築の未来」と題されたパネルディスカッションより、「建築現場と設計者をつなぐテクノロジーの活用法」に注目して5つのトピックを抽出し、お届けします。

Unity 道場建築編 Unity×建築の未来【パネルディスカッション】

モデレーター 丹野貴一郎(SUDARE TECHNOLOGIES株式会社 代表取締役社長)

SUDARE TECHNOLOGIES株式会社 代表取締役社長 。ゼネコンにおけるデザインから製造・施工まで総合的な経験をもとに、建築×テクノロジーに関するコンサルティングを行う。

石津 優子(GEL代表取締役)

神戸大学工学部建築学科卒業。ETHz ITA MAS CAADを修了。フリーランスで建築系ツール開発経験を積んだ後、インハウスのリサーチャー兼エンジニアとして大手建設会社、不動産テックにてBIMデータを活用した業務支援ツール開発に携わる。2021年3月、株式会社GELを設立し、代表取締役に就任。Parametric Design with Grasshopperの共著者。

粕谷 貴司(株式会社竹中工務店 情報エンジニアリング本部 課長)

2008年 竹中工務店に入社。情報エンジニアリング本部において、主としてスマートビルのエンジニアリングや技術開発を担当。スマートビルに対して、インターネット由来の様々な先端技術の適用や、Unityをはじめとするゲーム由来技術の融合などに取り組んでいる。博士(情報理工学)

渡邊 圭(株式会社梓設計 アーキテクト部門AXチーム/株式会社梓総合研究所 取締役)

慶應義塾大学SFC政策・メディア研究科修了後、不動産デベロッパーを経て2018年梓設計に入社。環境シミュレーションやアルゴリズムを用いた建築設計を専門とするほか、IoTによる空間分析や画像認識アプリ開発などテクノロジーを活用して建築の可能性を拡張するプロジェクトを推進している。2021年10月より設立した㈱梓総合研究所の取締役に就任し、建築×テクノロジーの研究開発やプロジェクト推進を担当。

1:建築業界でのUnityの活用

BIMを使ったVRオフィスツアー

渡邊:私がUnityを活用するきっかけとなったのが、2019年の梓設計のオフィス移転でした。環境、人感、開閉などを感知するIoTセンサーを、新オフィスのあらゆる場所に配置し、それとBIMモデルを合わせて、VR上で可視化するプロジェクトを始動させました。そのプラットフォームとしてUnityを使うことになったんです。

移転した半年後に新型コロナウイルスが流行したことで、オフィスツアーなどは控え、「 VRオフィス案内」を行いました。結構建築業界にの方は興味をがあるを持たれる方が多くて、ちょっとサイバー感のある表現なども好評でした。

丹野:空間データだけでなく、そこにIoTの情報を結びつけたVRにしたと。参加者の反応に変化はありましたか?

渡邊:リアルなオフィスをデジタル空間に再現するだけだと、マテリアル感を表現しきれず、結局は「実物には勝てない」と驚かれません。しかし、IoTで得られたデータを重ねることで、ゲーム空間にいるような感覚となり、反応も変わってきたように思いますね。

BIMを使ってライブ会場をVRで再現

粕谷:私も昨年、社会人学生の博士課程で、VR配信プラットフォームに取り組んでいました。ライブ会場に360度カメラを配置し、BIMデータを使い、Unityでライブ会場を再現して、VR上で音楽配信を楽しめるようにしたプロジェクトです。Unityは、音響のシミュレーションにも使いやすかったですね。

BIMを使ってゲーム感覚で物流倉庫を設計する

石津:以前に私も、音響設計の企業とのコンサートホール設計のプロジェクトで、Unityで音響アプリを制作しました。音響設計の担当者と建築担当者がスムーズに話し合えるように、吸音率などの関数を集めて、Unity上で音をビジュアライズ化したんです。音響設計の事務所は、SketchUpを使用することが多いとのことで、この時はあえてBIMを使いませんでしたが。

BIMデータをUnityに入れて物流倉庫のアプリを制作したこともあります。建設担当者だけでなく、倉庫の営業担当者もアプリを使い、倉庫建設で重要となる建ぺい率や容積率をその場で出しながら、顧客にイメージを伝える商談ツールにもなっています。

BIMモデルで「箱」を最初に作ることで、営業担当者は地図上で建設倉庫のだいたいの大きさを把握しつつ、ゲーム感覚で3Dシミュレーションできます。その結果を倉庫の設計担当者に渡すことで、ある程度セットアップされた状態から構築でき、ワークフローの簡略化に繋がっています。

Unityの強みは、PCに留まらず、アプリでデータを持ち出せ、BIMデータを可視化し、ツール化できることだと感じました。

2:建設アプリの開発で、BIMデータを扱うポイントは?

BIMが持つデータに対するアクセス管理

丹野:Unityを活用した建築アプリの開発が増えてきました。開発時に、BIMと結びつけながら行うポイントはありますか?

粕谷:私は現在、大阪万博に向けてフィジカルとデジタルが結びついた実験スペース「コモングラウンド・リビングラボ」に参画しています。ここでは、実世界での建物の空間を作った後に、それと同様のバーチャル空間をゲームエンジンで再現し、シミュレーションを行っています。

バーチャル空間を再現するにあたって、ジオメトリデータなどと実世界の建物設備システムを連携させる際に、BIMデータを活用しています。ただ、建物設備システムで使うポイント数が非常に多くなってしまう課題があり、ジオメトリデータと建物設備システムのポイントを自動でバインディングできるようにしました。

建物設備システム側のBIMデータには、自動バインディングにおいて必要な情報と不要な情報があります。不要な情報を残したままにすると、アプリ開発での混乱を招き、セキュリティホールになる恐れが残る。そのため、BIMデータのどの項目をゲームエンジンに入れるか、ジオメトリデータなどを扱う設計者に何を渡すかを精査しなければなりません。

そこで今回は、主に2つのプロセスからなる自動ワークフローを構築して検証しました。まずは、ジオメトリデータなどと連携したBIMデータから、IFCパーサを用いて必要な情報だけを抜き出します。次に、それをUSDファイルに変換し、ゲームエンジンやBlenderなどのDCCツールで扱いやすいように変換しています。

多くの人は「BIMデータなどをそのままゲームエンジンにインポートすれば解決する」と考えがちですが、実際はこのようなワークフローを研究開発していかないと、活用の普及は進まないのではないのでしょうか。

BIMを扱うプログラムへのアクセス管理

丹野:渡邊さんも、移転後のオフィスをバーチャル空間で再現されてましたが、粕谷さんのおっしゃる「ゲームエンジン上でのBIMデータを扱うワークフローの設計」についてどう思われますか?

渡邊:私も必要だと感じて、実際に弊社でも取り組んでいます。

デザインに合わせて構造や環境性能などをシミュレーションする「コンピュテーショナルデザイン」の効率化のために、開発者と設計者は同じGrasshopperを使っていました。

ただ、そうすると課題も見えてきました。たとえば、設計者がプログラムを編集できてしまったり、不要であっても開発者と同レベルの環境を構築せねばならなかったりするのです。さらに最近は、多くの人が関わる大規模開発プロジェクトも増えてきて、様々な人がツールを使うために、より簡単に知見やデータの共有が求められるようになりました。

理想的な環境をチームで議論するなかで、次の4つが条件に挙がりました。

  • ・UIが必要な操作のみで構成されている
  • ・プログラム自体は編集できない
  • ・webや別のソフトウェアからアクセスできる
  • ・結果をスムーズに共有できる

そこでUnityを使い、開発者側でデータやUIに対してフィルタリングを設定した上で設計者へ共有することにしました。

某スタジアムの設計プロジェクトでは、Rhinocerosにて開発していました。しかし、他のユーザーが使用するときにも、Rhinocerosといくつかの重いデータをインストールしなければなりませんでした。また、バージョンが違うことで、うまくデータを開けないといったアクシデントも起きてしまったんです。

その経験を活かして、次に取り組んだ某劇場の設計プロジェクトではUnityを使い、webのUIで操作できるものを制作しました。作業としては、まずはRhinoComputeを使って、Three.jsでバックエンドサーバーにオブジェクトをパラメーターと一緒にいれて計算させる。その結果を3DオブジェクトとしてThree.jsに変換し、表示させています。

これにより、UI自体にフィルタをかけられ、データを直接編集できないように制御できました。また、社内の様々な人がスムーズにデータを見られるようにもなったのです。

webのUI操作画面を作ることにはJavaの知識が必要で、建築を学んできた人からするとハードルが高い。そこにUnityを使うことで、すごくシンプルかつグラフィックベースで作れるので、親和性がある使い方だと感じました

3:建築業界でのソフトウェア導入を促進するには?

丹野:石津さんは現場の方と連携して開発することが多いかと思います。使用者に適正化したツールにすること以外に、これからの建築業界ではどういった開発の観点が求められそうでしょうか。

石津:開発をするときには、さまざまなソフトウェアから、どれを使うのか決めることになります。私自身もいくつかのソフトウェアを習得し、使ってきました。プロジェクトごとにあったものを選ぶ時の前提は、ソフトウェアによって作業の向き不向きがあることを認識しなければなりません。。開発者は操作感だけではなく、ソフトウェアの構造をよく理解し、最適なものを判断するべきだと思っています。

そのためには、ただ単に「ソフトを使いましょう」と促すのではなく、各アプリごとの構造やアルゴリズムを理解して、やりたいことに適したアプリを考えられる開発者が増えてくるのが理想的です。

また、開発者がアプリ化を検討する場合も様々な要素を含めすぎないことが肝心です。初めから汎用性を考えてしまうと、アプリが肥大化してしまうからです。小さな範囲から始めて、少しずつ広げていくことが大事ではないでしょうか。

丹野:建築業界の方は、素晴らしい建築物を作りあげているのに、ソフトウェアやシステムのことになると急にアーキテクチャという考えがなくなり、管理できなくなっていますよね(笑)。

石津:ええ(笑)。現場の方は、建設素材を手にとって良いものを選ぶ機会が多いと思います。開発者も同じように、まずはツールを開いて触れてみる、いじってみることが大切ですね。

丹野:実際にそういう考えを持つ人材が増えていくことに期待したいです!

4:Unityはリソースが豊富で初心者も始めやすい

丹野:Unityが今以上に建築業界で使われていくために、どんなことを求めていきたいでしょうか。

渡邊:さらに門戸が広がるといいな、と常々思っています。自分のチームには、バックエンドエンジニアやGrasshopperを学んでいた人など、多種多様なメンバーが在籍しています。他にも建築関係者を含めて、さまざまな開発者ではない人もUnityを気軽に扱うことができるようになるためにも、インターフェイスがより使いやすくなったり、言語対応が広がったりすることに期待したいですね。

丹野:渡邊さんはUnityをどのように学ばれていますか? 

渡邊:meet upやセミナーが多いですね。石津さんのセミナーは学びやすいです。

丹野:石津さんにはもっと協力していただけなければですね(笑)

石津:ぜひぜひ(笑)。私が最初にUnityを触った時、とても初心者にやさしく感動しました。オフィシャルで提供されているリソースは充実していますし、日本語の書籍もあるので、始めやすいかと思います。

丹野:石津さんレベルだと、Unityはやさしいんですね。

石津:CATIAの自動化よりは全然。リソースもたくさんあるし(笑)。

丹野:粕谷さんはUnityに触れた時の印象、いかがでしょうか?

粕谷:Unityは3Dでオブジェクト指向で開発できるのはすごいと思いましたね。Unity社員と話すとCyber-Physical Systemに力を入れているそうなので、今後も楽しみです。

丹野:いろんな立場の人が、情報共有する場を作れたらもっと良いですね。

5:デジタルツインを現場目線で広げる取り組み 

デジタルツインを次の段階へ

丹野:近年は「デジタルツイン」が一つの標語となってきました。建築業界からも企業のトップやプロフェッショナルな方々が発信されてはいますが、どこか現実味に欠けるとも感じています。皆さんのように中枢で関わっている方からすると、デジタルツインを現場目線で広げていくには、どのような取り組みがあったら良いでしょうか。。

     

粕谷:今のところデジタルツインは、建築業界では3Dビューワー止まりになっていると思っています。デジタルツインの価値とは「フィジカルな情報」と「デジタルな情報」が同じものとして扱われていることにあります。

その立場を取るならば、今後はフィジカルな情報をデジタル環境へ取り込み、活用するためのアプリ開発など進めていく段階にあるのではないでしょうか。たとえば、サイバーセキュリティの目的でも、利用者がデジタルツイン上で「どこにいたのか」といった情報まで記録していくような仕組みも今後必要になってくると思います。。

BIMの情報をどう整理するか検討を始める

渡邊:会社でもBIMデータを維持管理に使ったり、それをゲームエンジンに載せたりすることもあるのですが、私としては「データを一箇所に集約させればそれでよいのか?」というのは疑問視しています。

BIMデータはパロメーターが何百個もありますが、それらをデータベースに整理して、伝えられる形にしないといけないときに、「建物」や「街」という単位にまとめてしまうのは良いのだろうか、と。データも適材適所に置く構築が必要になってくると考えています。

この構築が、今までの建築業界で言うならば、設計図や模型、施工図だったと思います。それらを一つでコントロールできるためのプロセスを考慮すること、分散的なデータベース設計を考えることが、デジタルツインを推進するためにも必要なのだと思います。

デジタルツイン情報の共有化を進めよう

丹野:今まではプロセスを軽視されがちだったので、こういった構築はしていきたいですよね。石津さんはいかがでしょうか?

石津:最近、国土地理院の情報普及化公式GItHubで情報が頻繁に更新されたり、APIが公開されたりしています。こういうものがどんどん公開されることで、現場の私たちが実際に使って、「この情報がもっと欲しいなど」をフィードバックできる思います。

これを理想形として、建築業界もデジタルツインに関する情報をGitHubで共有して、API化するといった動きを進められると良いのではないでしょうか。データやイシューとしても残すことができ、データがどういう風に成長していくかのプロセスも見ることができるかと思います。

丹野:建築業界のデジタル化が進む一方で、取り扱う情報量が膨れていく課題も浮き彫りになってきています。データを整理するのはもちろんのこと、Unityのような技術を用いてそれらにアクセスし、多くの人が利用しやすいアプリやインターフェースが作れるると、より情報がわかりやすく、伝わる世界が実現できるのかもしれません。

次は「Unity建築ハッカソン」のような形で開けるといいですね。今日はありがとうございました。


建築業界もはじめ、リアルなマテリアルを扱う産業においても進むデジタルツイン。ゲームエンジンであるUnityは、それらを後押しする存在になろうと日々改善を重ねています。

以前にも建築、製造業、自動車といったリアル産業のデジタルツインとUnityとの関係性を、それぞれの業界を担当する社員が語ったnoteを公開しています。

ぜひ併せて、下記もご覧ください!

https://note.com/unityjapan/n/n390dab28a5fa