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2022.01.07

【Unity道場“建築編”レポート】
建築業界のXRにはどんな可能性がある?
注目したい3つのトピック

Unityのエキスパートたちが、開発者向けに、様々なトピックをセミナー形式でお届けする「Unity道場」。2021年11月10日(水)には建築編として、常に新たなテクノロジーを導入する、建築業界の“革新者”たちによるセッションが開かれました。

配信された3つのセッションのうちの1つが、この記事で紹介する「HoloLabが語る、建築業界で注目したい最新テクノロジー」と題されたパネルディスカッションです。都市空間をUnityで再現し、いかに3Dデータを現場でよりよく活用するか、非エンジニアでも使えるUnityの機能といった「建築業界におけるXRの可能性」に関する3つのトピックをお届けします。

Unity道場 建築編 HoloLab. が語る、建築業界で注目したい最新テクノロジー

モデレーター 伊藤武仙

株式会社ホロラボ/Co-founder 取締役COO

2013年に技術コミュニティTMCN立ち上げ参加をきっかけにKinectなどセンサー技術やインタラクティブな体験に強い関心を持ち、同じ関心を持つたくさんの仲間に出会う。

2017年にはその仲間たちと共に、Microsoft HoloLensに代表されるMixed Reality等XR技術をテーマとしたホロラボを創業。最近は人と都市空間の関係をテーマに活動。建築情報学会理事。

於保 俊

株式会社ホロラボ/ソフトウェアエンジニア

測量会社、ゲーム会社を経て現在株式会社ホロラボにてXRシステムの開発に携わる。これまでに、GISやWeb開発、Unityでのスマホゲーム開発など様々な分野の開発を幅広く経験してきた。現在はXR分野の中でもARクラウドに興味があり、仕事・趣味両面でARクラウドのある未来の実現に挑戦している。

上山 晃弘

株式会社ホロラボ/エンジニア

株式会社ホロラボのエンジニア,Microsoft MVP.業務,趣味を問わず HoloLens を中心とした AR/VR/MR のソフトウェアを開発,情報発信し,新しい体験の可能性を模索しています.

長峰 慶三

株式会社ホロラボ/ソフトウェアエンジニア

現実とバーチャルが混じった体験が好きなXRエンジニア。株式会社ホロラボ所属。仕事でも趣味でも実験やプロトタイピング開発など日々何かを作って遊んでいる。福岡を中心にXR好きが集まるコミュニティ「福岡XR部」を運営。

高橋 忍

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社/プロジェクトマネージャー(AEC)

日本マイクロソフト株式会社ではテクニカルエバンジェリストとして新しい技術を紹介しながら、HoloLensのテクニカルリードとして技術情報の紹介からパートナー育成などを担当。現在は Unityでエンタープライズ向けのプロジェクトマネージャーをしつつ、Unity の新しいサービスをご紹介しています。

HoloLab と 建築業界の関わり

伊藤:Mixed Reality(以下、MR)を実現するヘッドマウントディスプレイの「Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)」が、2015年に登場し、17年には日本に上陸しました。 これを契機に、MRをテーマに設立したのがホロラボです。

立ち上げ時は5人でしたが、今では60人を超えるMRのスペシャリスト集団となりました。

製造業から医療、エンターテイメントまで、様々な分野でMRの利用検討を行うプロジェクトに関わってきましたが、最近は特に、Architecture, Engineering & Construction (AEC) に携わることが増えてきました。

その理由の一つは、HoloLensを被ると周辺の空間を立体で認識できる「空間マッピング」が、建設業と相性が良いからだと思っています。

高橋:HoloLensが卓上だけでなく、建設現場でも使える認識が広がったのでしょうね。

伊藤:そうだと思います。HoloLensが登場した当初は、室内で被り、CGをテーブルの上に表示させることがメインでした。それがこの5年で、フロアから建物全体へと規模が広がり、建築業界からは「街を丸ごと表示させたい」という需要も高まっています。今後はより領域が広がり、やがては地球規模で使うことになっていくのではないでしょうか。

そして、一時期には「HoloLensに入れるアプリの95%はUnity製」と言われているくらい、HoloLensとUnityは深い関係にあります。そこで今回は、ホロラボでも「Unity Love」なメンバー3名が、これからの建築業界で注目したい最新テクノロジーを、事例も交えながらご紹介します。

1:日本全国の3D都市モデルデータ「PLATEAU」

於保:都市空間をUnity上に再現する際には、国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクトの「PLATEAU」役立ちます。約50都市の3Dデータが公開されており、一部ではテクスチャーなども含む非常に詳細度の高いデータも用意されています。

更に、地理座標だけでなく、災害対策などに使えるメタデータも紐付けられ、緯度経度から正確な位置決めができます。また、FBXやOBJデータでも配布しているので、Unityへ簡単に取り込めるようにもなっています。PLATEAUのおかげで建築モデルを活用したアプリケーションを作成するときにも建物の周りの景観も再現しやすくなります。

こちらは社内のR&D(研究開発)部署のメンバーが作ったPLATEAUのCityGMLを直接Unityにインポートしたものです。これは静岡県沼津市のデータで、点群データも読み込んでいます。

高橋:日本の主要都市は、オープンデータを使えば、デジタルツインのベースとなるものは整備できるということですね。

於保:そうですね。特にUnityは、こういった3Dでリアルの情報をインタラクティブに扱うプラットフォームとして便利だなと感じています。

2:モバイルデバイスで巨大な3Dデータを表示する技術「Remote Rendering」

上山:建築業界で使うデータといえば、FBX、STL、OBJなどの「3Dモデルデータ」、図面に使う「CADデータ」、建物の立体モデルを再現した「BIMデータ」と様々なものがあります。

これらは、グラフィックボードを搭載したPCで閲覧するのが一般的です。しかし最近では、タブレットやスマホなどのモバイルデバイスやHoloLensを用いて、建築現場でデータを閲覧したいというニーズがあります。

しかし、重くて複雑なデータを、非力なモバイルデバイスで表示することは難しいので、たとえば、3Dモデルのポリゴン数を削って容量を軽くするなどの対応をしなければなりません。

高橋:ただ、データ量を減らしても、形が変わったり、角が削れたりするなど、大本のデータの見え方からクオリティを落とされては意味がない、と建設現場の方はおっしゃいますよね。

上山:そうなんです。そこで有効なのが「Remote Renderingサービス」です。グラフィックボードを搭載したPC上でデータのレンダリングし、その画像を送信してデバイスでは表示だけ行うことで実現させる技術です。これを実現できる環境がUnityなんです。

ここでは、「UnityのSDKが使えるRemote Renderingサービス」を3つほど紹介できればと思います。

【HOLO-LIGHT ISAR SDK】

上山:1つ目は、HOLO-LIGHT社の「ISAR SDK」で、PCでレンダリングしたものを、HoloLens2やVRデバイスで表示できるサービスです。

以前、このISAR SDKを使い、旧都城市会館のフォトグラメトリーと点群データを合わせた大規模データのレンダリングを行い、HoloLensで再現することに取り組みました。点群数は2500万点ほどにのぼり、HoloLens単体だと表示しようした瞬間にシャットダウンしてししまうほど重いデータです。詳しくはこちらのブログでもまとめています。

伊藤:2019年10月に火災で消失した首里城を観光客の写真をもとに再現した「みんなの首里城デジタル復元プロジェクト」でも、ISAR SDKとHoloLensを組み合わせたんですよね。

上山:はい、UnityでISAR SDKを実装し、レンダリングを行った3DデータをHoloLensで表示しています。約500万ポリゴンあるデータにも関わらず、ポリゴンリダクションせずに視覚化できました。またリアルタイムで、スムーズに頭の位置に応じて映像が切り替わり、HoloLensのハンドトラッキングも有効です。

【Azure Remote Rendering 】

上山:2つ目が、HoloLensで大規模点群を可視化できるMicrosoft社の「Azure Remote Rendering(以下、Azure) 」という機能です。実際に使用した動画がこちらです。

Azure Remote Renderingで1億ポリゴン表示 | HoloLens 2

これは、Azureでレンダリングを行い、HoloLensのなかに組み込んだUnityアプリのコンポーネントで再生しています。手の形状やグリッピングの枠はUnityのアプリで表示しているので、サーバでレンダリングしているのは建物データだけになります。

他にも、AzureのSharing機能を使えば、複数のHoloLensで同じ空間を共有することができます。

Azure Remote Rendering Sharing

こちらの動画では、撮影者も対面にいる人もHoloLens 2をかけて、オブジェクトの動きを可視化しています。他の人が動かしたものが、自分の視界でも動くようになっています。

【Unity Render Streaming】

上山:上記2つはHoloLensで表示させるためのものですが、Unityにもリモートレンダリング機能が搭載されています。「Unity Render Streaming」は、レンダリングした映像をネットワーク経由でデバイスに配信するものです。

高橋:Unityは開発拠点が世界中にあるのですが、この機能は日本のメンバーが作ってるんです。そういう意味でも、日本の皆さんにも使ってもらいたいですね。

※2019年のUnite Tokyoでの開発者による講演スライド

3:プログラミング無しでアプリを開発できるビジュアルスクリプティング

長峰:私からは、ドアの開け締めなど、空間での挙動をUnityでどう再現するかを紹介できればと思います。

その前に、私が「Unity Love」な理由を伝えさせてください。Unityでは、開発当初から「ゲーム開発の民主化」を名言していますよね。

私はもともとゲーム開発を志して、プログラミングを学びました。ところが、ゲーム開発は、3Dモデルをインポートして表示するまでの道のりが長く、そこで挫折する人も多い。Unityは、この開発工程を簡易化し、ゲームを面白くすることに集中させてくれると思います。そこがUnityを愛する大きな理由となっています。

プロセスの簡略化はゲーム開発だけではありません。ここでは、空間での挙動をコード記述に頼らずできる機能を紹介できればと思います。建築業界からの「3Dモデルを動かしたい」ニーズに簡単に応えられるのが、Unityの「ビジュアルスクリプティング」です。

今までは挙動を作りたいときは、プログラミング言語でコードを書く必要があり、エンジニアの知識が必須でした。それがビジュアルスクリプティングを使うと、コードを書く必要がありません。

ドラッグアンドドロップ式の「ノードグラフ」を組み合わせて、線で結んでいくことで、挙動を作れるようになっています。

高橋:最近は、ニンテンドースイッチでもゲームプログラミングができるソフトが出ましたね。あれもノードベースでキャラクターの動きを管理するので、小学生でも作れるものですよね。

長峰:エンジニアではない人でも、コードを書かなくてもロジックを組んで何かを作るという流れは加速していると思います。あとは、Unityでは2021のバージョンからビジュアルスクリプティングが標準装備されているので、今からUnityを始める人はよいタイミングではないでしょうか。

Unity Japan Office showreel Tsumikiseisaku

ここからは、ビジュアルスクリプティングをよりイメージしてもらうために、Unity JapanのオフィスをUnity上でCG化した「Unity Japan Office」を題材に見ていきます。

この中で、近づくとドアが開き、離れると閉まるという挙動があります。この動きはもともとC#のスクリプトで実装していました。エンジニアにとってはシンプルでわかりやすい記述かと思いますが、非エンジニアの方にとっては難しいものです。そこで、この挙動をビジュアルスクリプティングで置き換えてみましょう。

その前に、あまり参考にならない例を2つ紹介します。

まずは「C#のスクリプトをそのままビジュアルスクリプティングに置き換え」てみました。左から右に向かって処理が進んでいく記述ですが、こののように非常に複雑になっていました。

二つ目が「状態を関することが出来るStateMachineを使って整理する」方法で置き換えてみました。このように。近づいたらハンドルが回ってドアが開く、あるいは離れたら閉まるといった、いくつかの状態に分けて、それによりロジックも切り替わっていく仕組みです。ただこちらも、以下のように複雑になってしまったんです。

では、どうすればいいのかを考えた時に、挙動部分をStateMachineとアニメーションで事前に作成し、制御部分をビジュアルスクリプティングでノードグラフ化することにしました。

今まではドアの回転もすべてスクリプトで記述していました。これをUnityの「アニメーション」という機能でドアの開け締めの動きを作ってしまいます。

次にアニメーションを切り替える「アニメーションコントローラー」という機能で、ドアの開け締めのトリガーを作っておきます。

そして、この挙動の切り替えにビジュアルスクリプティングを使います。そうすることで、以下のようなノードグラフになりました。

このように、Unityの様々な機能を組み合わせ、シンプルに制御することを意識することで、よりわかりやすく挙動を作れるようになりました。

高橋:こういった仕組みをコンポーネント化できるところがUnityの良さだと思っています。今後は、建築業界をはじめ各分野に特化したコンポーネントが用意され、組み合わせるだけで簡単に実装できるようになるかもしれません。それこそ「ノンコードの波」が来そうですね。

長峰:そうですよね。ただ、コンポーネント化されたからといってエンジニアがいなくなるわけではないでしょう。もっと複雑な処理をしたい時に、エンジニアがプログラミング言語でノードグラフを作り、それをエンジニア以外の人が使っていくのだと思います。

伊藤:たとえば、「ドアの可動域」を記述したBIMデータをUnityに取り込めるようになると、やれることがもっと広がりそうですね。

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建築現場で「こういうことをやりたいけれど、できなかった」ことが、技術開発によって年々実現しています。さまざまな分野でのDX化も踏まえて、今後も常にアップデートされる技術情報を共有していくことの大切さを感じます。

先日には「【Unity道場“建築編”レポート】建築現場と開発者をつなグテクノロジーの活用法」も公開しています。ぜひ併せてご覧ください。